株式会社アイシーアイ

「秘密」について

今月のBossのつぶやき
~ 「秘密」について ~

 今月は「秘密」について書いてみよう。すったもんだの末、特定秘密保護法が国会を通った、というのが年末の話題に加わった。新聞やテレビなどの報道によれば、戦前に戻る、とか、知る権利が奪われる、というような問題がある法律だそうだ。私自身は、特に反対ではないが、推進するような立場でもない。
 これまでだって、国家公務員にはもちろん法律があり、企業や企業で働く人にも様々な「守秘義務」が課せられており、使い方によっては、簡単に「処罰」や「懲戒」の対象とされる可能性も否定できない状態で仕事をしていたとも言える。法律ができると「処罰」されるよ、というような解説もあったが、刑事告発に依るのならば、幸いわが国は「法の適正手続き」を定めた憲法を持ち、刑事訴訟法336条の「疑わしきは被告の利益原則」があり、さらに「推定無罪」を掲げる国際人権規約を批准しているので、会社の規則に反したり請負契約の守秘義務違反を問われたりするよりは、申し開きもし易いだろうと思うのだが、どんなもんだろうか。
 さらには、政権によるこの法律の悪しき運用により、本当に基本的人権や国民の生命財産が侵害されるような事態が起こったのであれば、自ら刑事被告人となったとしても人権を守るために立ち上がるのが心ある人の姿ではなかろうか。
 国民一人一人が自分の気に入らない政府を倒す権利を持っているのが民主主義なんだからね。日本だって一応政権交代が出来たんだし。

 さて政治論はここまでとして、本題の「秘密」であるが、まずは辞書を紐解くことにしよう。
 漢字の意味から見ていくと、まずは「秘」。今の書き方で言うと禾(ノギ)偏の漢字だが、この漢字の偏は禾ではないのが正しい。本来は、示(シメス)偏であり「神事」や「呪儀」に関する意味の字である。旁の「必」は、斧や刀のような刃のある武器を示すようだ。白川静先生の「字統」によれば、「秘」は、そのような武器を用いた呪儀を示すそうだ。「密」はその呪儀の内容であり、室内でそのような武器と火を用いた儀式をすることだそうな。秘と密を合わせて、室内で隠れて行うような物事となる。まあ、「見ちゃダメ」ということ。ちょっと「インビ」でしょ。「秘め事」って感じですよね。
 翻って、英語を見ると、「秘密」というsecretの語源はラテン語の「cerene」で「離す」とか「ふるいわける」などの意味だそうで、seとくっついて「他の人から離しておくようなこと」になるそうだ。なので、こちらは「知っているのはお前と俺だけだぞ」という感じがある。知っている人同士お互いが信頼していることが「秘密」の前提となり「秘密を持てるような部下」という意味でsecretaryが居るのである。
 この12月に国会を通った法律に使われている「秘密」とか会社同士が交わす「守秘義務条項」の秘密などは、やはりアングロサクソンスタンダードをオリジナルとしているだけに漢字の語源よりも英語的であるようだ。

 さて、我々の身の回りにはいっぱい秘密がある。そう思うでしょ。ということで、どんな「秘密」があるのか、見てみよう。
 まずは、「鶴の恩返し」風の秘密。これは、個人が家族にも隠しているような秘密だ。「つう」は自分の羽を抜いて布を織る事で恩返しをしているのだが、そのことは、自分と生活を共にしている「よひょう」には隠している。「織っているところは見てはダメです」ということになっている。まあ、個人的な「隠し事」だね。パチンコはやってない事になっているけど、実は小遣い稼ぎのため奥さんに内緒でパチンコ屋さんに通っている亭主、というのもある。あるいは、スパイ(特に潜入した「もぐら」)もこんな感じだろう。これは、秘密を持っている人にも隠し事をされている家族や同居人の精神にも悪い影響があり、おとぎ話でも実話(?)でも結局は破綻することになっている。破綻せずに済む人は、相当な「悪人」で一緒に暮らしたくはないような人かもしれない。けど、「永遠の嘘」が付ける人なので、バレなければバレないで「良い事」だという説もある。

 逆に、知られても仕方が無いような個人の秘密を皆で隠す、というものもある。これは「王様の耳はロバの耳」。生活するあるいは普通の活動をしていると自然に分かっちゃうのだが、それを必死で隠す、というもの。裸の王様、もそういうような「秘密」の一つである。だいたい、権力者の「秘密」はこの類いだ。ロバ耳王様のように「言ったら殺す」というように「隠す」ものもあれば、裸の王様、のように、皆で王様一人に秘密にするケースもある。こういう「秘密」を持った権力者は、問題である、という寓意なのだろう。もっとも、裸の王様の方は、みんな知ってることを一人にだけは知らせない、という「いじめ」型の秘密という類型とした方が良いかもしれない。そもそも、仕立て屋が王様を「いじめ」ようとしたのが発端なのだよね。

 次は、良くある「これは他の人には言っちゃダメ」という秘密。これは、まず、だいたいがバレる。なぜなら「これは君だけに言うから絶対に秘密だよ」と言われた事は、言いたくなるのが人情なのだ。であるので秘密を共有した人は、大概のように他の人を巻き込む。「秘密なんだけどさ。君だけには教えるから誰にも言っちゃダメだよ」という台詞を聞き飽きた人も多いだろう。
 「秘密」はこの枕詞を付けてニュースの如く関係者の間に広がって、最後は最初の秘密の持ち主にも伝えられ、ビックリすることになる。英語の意味のように「信頼」がベースにあるのだが、自分が信頼してる人に実は「もっと」信頼している人が居る事を忘れてはいけない、という教訓だ。なので、こういう場合は「約束」が必要だ。「バラしたら針千本飲ます」でも良いし「指詰める」でも良いのだが、とにかく約束と破った場合の罰則は必要なのだ。
 一方で、話の中身が、誰にも話したくないようなどうでもいい事なら「約束」も「罰則」もなく秘密は守られるだろう。とは言え、こういう秘密は忘れられるものなのだ。従って、頭のいい人は秘密を共有する必要がある時には、約束や罰則、よりも「つまんない話なんで人に話すと笑われるかもしれないけど、忘れるといけないから君には話しておく」というような言い方をするのだ。これなら、だれももっと信頼してる人にも話したくはならないはずだ。

 また、最近(でもないかな)良く聞くようになったNDAというものもある。そもそも、企業間の取引で得た相手側の情報をめったやたらに公開しない、というのは、企業間取引のベースにあるモラールだと思うが、ことさらそれを「秘密」として扱う、という取り決めだ。この場合、「秘密」にするための手続きがきちんと定められているし、罰則もきちんと存在している。おそらくは相手のモラールを信頼してないから結ぶ契約のような気もするが、結ぶと安心するような気がするのは奇妙だ。

 ともあれ、私が思うに「秘密」は漏れるものである。秘密にする、あるいはしておかなければならないことは、その事自体に価値があるのだ。鶴の恩返しのすばらしい布の製造方法や王様の面白い習慣とか性格、「これだれにも言っちゃダメ」という話、そして企業間の取引に関わる種々の情報、この話は「こいつ」にだけは言っちゃダメという理由、などなど、、、表に出ることで、誰かが「損」をするのだ。
 しかし、きっと特定の人だけが儲かる、あるいは損をするようなことに耐えられない、というのが群れで生きて来たヒトの性だ。損益を平準化してしまうような圧力は常にあって、誰かは、自分だけは損をしない(あるいは得をする)というような気持ちから、秘密を漏らしてしまう。その時は必ず「これは秘密なんだけどさ、話すのは本当に信頼している君だけだよ。扱いには注意してくれ。」と言うに違いない。
 でも、ヒトは、なぜかそう言われたことは「必ず」誰かに伝えてしまう。これも、本能かもしれない。常に飢えと渇きに直面し、群れを守ることが自分が助かること、という動物としてのヒトの本能が秘密は排除してしまう。なぜなら、良い事にしろ悪い事にしろ実は群れ全体が知っていることの方が利得が多い、ということが分かっているからだ。あの丘の向こうに水場があるけど、あそこは夏場は熊が出る、という情報を隠したら、大変なことになる、と古い皮質が覚えている。

 「秘密」は、新皮質、すなわち人の知能の仕業だ。ヒトが人となったことで出来た新しい「能力」でもある。でも、それは、動物としての勘、には勝てない。法律に賛成している人も反対している人も同じ本能を持っているのだ。なので、秘密に関する法律とは、なんと空しいものであるか、と思うのだ。必要なら作っても良いのだが、法律があるからと言って「秘密」が漏れない保証にはならないのだよ。
 漏れても、その被害をどう食い止めるか、その方策はあるのか、ということも秘密を管理する上で重要なことだと思うけど、この法律にはそれが書いてあったかな。本当は、お互いの信頼が重要なのだから「特定信頼者保護法」が必要なのかもしれないな。

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